PCIT-Japan PCITについて

PCITについて

親子相互交流療法
Parent Child Interaction Therapy :PCIT

PCITとは
★幼い子どものこころや行動の問題
★育児に悩む親(養育者) の両者に対し、
親子の相互交流を深め、その質を高めることによって回復に向かうよう働きかける行動科学に基づいた心理療法です。

エビデンスに基づいた治療
PCITは1970年代、米国でSheira Eyberg教授によって考案・開発され、現在も発展を続けています。PCITが効果を発揮するのは、一言でいうと「言うことを聞かない」「乱暴」「落ち着かない」「ぐずぐすする」などの行動上の問題を有する子どもや、育児困難に悩む親・養育者です。PCITによる治療効果については、すでに多くのランダム化比較試験が行われ、特に子どもの問題行動への介入についてはアメリカ心理学会の提示するエビデンスに基づく治療のガイドラインにおいて「よく確立されたwell-established」治療に位置付けられています。
 近年では、問題行動という広い枠組みから、より詳細に、例えば注意欠陥多動性障害(AD/HD)や自閉症スペクトラム障害(ASD)の子どもの養育をターゲットとした介入や、虐待を受けた子どもとその親との関係改善についても研究されるようになりましたが、それぞれのテーマでも良好な結果が得られています。
 その結果、PCITは米国で多くの基幹的な治療ネットワークに取り入れられるようになり、例えば子どものトラウマ性ストレスに対する治療連携組織であるThe National Child Traumatic Stress Network(NCTSN)においてもエビデンスに基づいた治療のひとつとして推奨されています。

Sheila Eyberg 教授

Sheila Eyberg 教授

世界に広がっている
 PCITは米国だけでなく、オランダ、ドイツ、ノルウェー、オーストラリア、ニュージーランド、韓国、台湾、香港、シンガポールなど、国際的にも大きく広がっています。日本では2008年に東京女子医科大学附属女性生涯健康センターのメンバーが中心となって導入し、その後、PCIT-Japanや日本PCIT研修センターのメンバーが普及を続けています。

PCITの対象
PCITの対象は、こころや行動の問題を有する幼い子ども(最適年齢は2.5~7歳)と育児に悩む親(養育者)です。養育者には実親だけでなく、里親や祖父母なども含まれます。

こころや行動の問題を有する幼い子ども
  子どもの一般的な問題行動
  発達障害(ASD、AD/HD等)や知的障害に伴う問題行動
  分離不安障害、不安障害
  虐待被害やDV目撃によるトラウマ体験に基づく精神症状・問題行動など

育児に悩む親(養育者
  子育ての経験に乏しい親
  子どもの頃虐待やマルトリートメントを受けて育った親
  自身の発達障害のある親
  虐待やマルトリートメントのリスクのある親
  DV被害者
  うつ病・うつ状態のある親

子どもの虐待やマルトリートメントのリスクのある家族に対する養育支援

PCITプログラムの概観ー2段階の治療
 PCITは、治療室内で親(養育者)が子どもに直接遊戯療法(プレイセラピー)を行い、セラピストは別室からマジックミラー越しにトランシーバー等を使って親にスキルをライブコーチするユニークな心理療法です。近年では、オンラインで実施するインターネットPCITも普及し始めました。
 1セッションの長さは1回60分から90分であり、通常12~20回で終了します。
 プログラムは「特別な遊びの時間 special play time」のなかで、親が子どものリードに従うことによって、親子の関係を強化することを目的とした前半部分(子ども指向相互交流 Child-Directed Interaction: CDI)と、CDIで獲得したスキルを維持しながら、よい命令の出し方や子どもがより親の指示・命令に従えるようにする効果的な「しつけの仕方」を指導し子の問題行動をターゲットにその減少をはかる後半部分(親指向相互交流Parent-Directed Interaction: PDI)の2段階に分かれており、それぞれ、親がスキルを学ぶティーチと、ライブコーチングを受けながら親子で遊ぶコーチのセッションがあります。前半部分のCDIスキルをマスターすると後半部分のPDIに進めます。また、各セッション間には宿題があり、治療中の親子は家で宿題をすることを求められます。

これまでの研究
 PCITの研究論文は多数上梓されていますが、なかでも介入効果に関するランダム化比較臨床試験(RCTs)は多々行われており、代表的なものとして1998年に米国で、2003年にオーストラリアで施行されたものが挙げられます。また、2007年にはTomasらのメタアナリシス研究によって、エビデンスがよく確立された治療に位置付けられました。介入効果の維持としては、1~2年の短期間、あるいは3~6年の長期間に関するものがあり、やはり良好な結果が提出されています。
 身体的虐待とネグレクトに関する研究はBorrego et al. (1999)らのケーススタディに始まりますが、系統だった研究では、介入850日後身体的虐待再開率が、それまで用いられていた一般的な地域での介入49%に対し、PCITが19%にとどまったとする2004年以降のオクラホマ大学のChaffinらの一連の研究が大きく貢献しています。
 発達遅延や発達障害に関連する研究では、破壊的行動障害と精神遅滞の合併、自閉症スペクトラム障害 やAD/HDに関する有効性の報告、また、子どもの不安障害に関する有効性の報告があります。また、抑うつ状態にある母親に対するPCITの効果に関する報告は最近のトピックです。
 日本においては、加茂らが主としてDV被害親子の養育再建に対する効果の検討と共に本療法の紹介を重ねてきました。そのほか、母親の自尊感情が回復した事例、虐待事例における効果や、ハイリスク新生児フォローアップ外来において育児困難を訴える家族に対する効果、低出生体重児の発達障害リスクに対する有用性研究、ASDの子どもに対するCDIの効果等がすでに報告されています。